人生最高の日

「今日は人生で最高の日かもしれない」と、さいきん毎日感じている。一日何度もそう思う。今ある周りのいろんなものに感謝しながら生きている。

両親は健康で、親戚ともそこそこ仲良く付き合いも深い。年に二度は家族と墓参りに行って自分のルーツを確認したり伝えたりする機会がある。子供は健康で素敵な人に成長している。親しい人、気負わず付き合える友達がいる。社会的意義があると信じられる仕事を、前向きで信頼できる同僚たちと進めている。手術のあとは毎日薬を飲むようになったけど、最近は趣味やスポーツも以前のように楽しめるようになった。おそらく人生において、こんなに良いことばかりが続く時期ってほとんどないんじゃないかと思う。
でも幸せの終わりはいずれ来る。今は健康な親ともいつか別れるだろうし、子供との関係にもこれから何かあるだろう。自分も老いれば体が悪くなるし、仕事にはまたしんどい時期があるかもしれない。
昔、というかほんの数年前まで、幸せな瞬間があると、幸せを感じると同時に怖くなった。幸せは長続きせずあっという間に終わるものだし、その後は喪失感に苦しむ。だったら幸せなことはなくてもよくて、不幸じゃない程度の普通の日が死ぬまで続けばいいのにと思っていた。中学生の頃、浜崎あゆみが『Far away』で「幸せは口にすればほら 指の隙間こぼれ落ちていく 形ないもの」と歌っていて、すごく共感できたし長らくそう思っていた。
35歳を目前にした今、「私はなんて幸せな人間なんだ」と毎日感じても、「あなたがいるから幸せ」と言葉にして伝えても平気になった。9月に手術した経験が大きな理由のひとつだと思うけど、たぶん大人になったのだと思う。大人になったというか歳をとった。老いていくことが現実に感じられるようになり、今後老いていくなかで何を拠り所に生きていくか考えなければならない年齢になったのだと思う。健康な親が、子供とのシンプルな親子関係が、恵まれた幸運な人間関係がいつかどこからか終わっていくことは予想できるし間違いなくそうなるだろう。でもこの幸せな瞬間を、失うことを恐れずにちゃんと正面から浴びて噛みしめればいいと思う。今後老いていく先で苦しいことがあっても、幸せだった頃の思い出があれば死ぬまで生きていけると思うから。